実験とは未知の領域に踏み込むための有効な手段ですが、人類の発展や飽くなき探求心により時に倫理観を無視した恐ろしい実験が行われることもあります。
今回紹介する実験は2019年に『National Science Review』に研究論文が掲載され話題になりました。その実験とは『アカゲザルの脳にヒトの遺伝子を移植する』という内容でした。
サルの脳にヒトの遺伝子を移植
研究は中国科学院・昆明動物研究所が主導し、ノースカロライナ大学と共同で行われました。
移植された遺伝子はMCPH1遺伝子というもので、人間の脳の発達において重要な役割を持つ遺伝子です。それをサルの脳に移植することで『人間が”知性”を獲得したプロセスを解明する』ことを目的としたそうです。
知性とは何か
動物に知性が無いかと問われると、そのようなことはありません。
ただ人間の知性は他の動物と比べて非常に高度で複雑であると言われています。
知性の定義は『物事を知り、考えたり判断したりする能力』であり、言い換えると与えられた情報を基に判断を下す能力ともいえます。
人間はこの能力が非常に高度です。
また他の動物との大きな違いは”人間は言語をもつ”ことで、言語を司る脳の言語中枢の機能が他の動物よりも優れているといわれており、それが人間の脳の大きな特徴でもあります。
この実験ではそのような知性を獲得したプロセスを探求することを目的としています。
実験の概要

実験では11匹のアカゲザルの脳にMCPH1遺伝子が移植されました。
移植を受けたサルのうち6匹は死亡し、生き残った残りの5匹に対して脳のスキャンや短期記憶・反応時間のテストなど行い、野生のサルよりも優れた結果が得られました。
また脳の発達速度が緩やかで通常よりも長くなり、人間の脳の発達過程に近くなったが脳の大きさ自体の変化はみられませんでした。
研究チームは
「私たちの調査結果は、非ヒト霊長類(類人猿を除く)が、何が実際にヒトをユニークにしているのかという基本的な疑問や、他の手段では研究が困難な神経変性や社会行動障害などの障害や臨床的に関連する表現型について、重要かつユニークな洞察をもたらす可能性があることを示している」
https://academic.oup.com/nsr/article/6/3/480/5420749
と結論づけました。
倫理的問題
近年では中国における医学的実験が倫理的な観点から問題視されています。
今回の実験でも半数以上が死亡し、残りも強制的に進化されられた状態で生きなければなりません。
このような実験をする権利が人間にあるのでしょうか?研究チームは「アカゲザルは遺伝子的にヒトに近いが、倫理上の問題が生じるほどの近さではない」といっています。
冒頭にも書きましたが、実験は未知の領域に踏み込むための有効な手段です。
しかし踏み込んではいけないラインもあり、このような倫理と科学の狭間に悩む研究者も多いといわれれています。
あなたはどのように感じましたか?
引用:https://academic.oup.com/nsr/article/6/3/480/5420749