『再生能力』とは?
今の時代には物珍しく、馴染みの無い行動かもしれませんが、子供の頃にトカゲを捕まえたと思ったら尻尾だけだった…なんて経験をお持ちの方もいるのではないでしょうか?
トカゲは危機に瀕した際、自らの尻尾を切って外敵から逃れようとする特徴があります。
驚くべきはその切り離された尻尾は、また生えてくるという事です。
このような生物が細胞分裂によって欠損した部位を取り戻す能力を『再生能力』と呼びます。
実は再生能力は人間にもある程度備わっています。
転んで怪我をすれば血が出てかさぶたになり、しばらくするとそれが剥がれ、怪我をした部分は元通りになります。
しかし大きなけがは傷跡が残り、腕や足を失った際にはそれがもう一度生えてくることは有りません。それが人間の再生能力の限界です。
先述したトカゲのように、自然界には人間とは比べものにならないほどの再生能力を持つ生物が多数存在しています。
今回は驚異の再生能力を持つ生物を5種紹介します。
再生能力を持つ生物たち
トカゲの尻尾
トカゲは外敵と接触した際に自身の尻尾を切ることで逃げようとします。このように自らの体を切り捨てる行為を”自切行動”と呼びます。
切れた尻尾は体から離れた後もしばらく動き回り、尻尾が外敵の注意をひくことでトカゲ自身が逃げる為の時間を稼ぎます。
自切を行う種のトカゲの尻尾には”自切面(脱離節)”と呼ばれる節目があり、危機を察した際にトカゲ自身の意志でそこから尻尾を切り離すことができます。

自切されたイシガキトカゲの尻尾 photo by:wikipedia
尻尾の自切は筋肉を動かすことで行われ、切れると同時に切断面の止血も行います。
その後、新しい皮膚が作られた後に”再生芽”と呼ばれる尻尾を再生するための組織が作られ、そこから時間の経過とともに尻尾が再生していきます。
尻尾は何度でも再生可能ですが、再生された尻尾は元の尻尾とは違うものになってしまいます。再生されるときには骨が軟骨になって再生され、元の尻尾より短くなることが多いです。
ウミウシ
2021年初旬、奈良女子大学が驚くべき現象を発見したことが話題になっていました。
これらのウミウシは、心臓を含む首元より後方の体(全重量の80%以上)を自切した後、頭側からほとんど元通りに全身を再生することができました。
複雑な体制をもつ動物が、心臓を含む体部を完全に失っても生存し、再生する例はほぼ知られていませんでした。今回見られた現象は、知られている限り最も大規模な自切の例だと言えます。
http://www.nara-wu.ac.jp/nwu/news/2020news/20210309/20210309.html
後述する『プラナリア』のように二つに分かれた体の両方から完全な体を再生させる動物も存在しますが、複雑な体を持つ動物が心臓を含む8割以上の体を失っても生存し、再生する例を発見したのは初めてだったようです。
この”コノハミドリガイ”というウミウシは、海藻を食べて生活しています。
その際に海藻から葉緑体を体細胞に取り込み、光合成によってエネルギーを得られる体になっています。消化器官を切り離しても生き続けられる理由としては光合成によるエネルギーの獲得があると考えられているようです。

切られた頭部から、1か月ほどの時間をかけて心臓を含む体全体が再生するようです。
シカの角(枝角)
鹿の角は”枝角(えだづの)”と呼ばれ、基本的にオスのシカに生えており、外敵との戦いや、メスを求めたオス鹿同士の競争、食べ物を入手する際に用いられます。
シカの角は一年に一回生え変わります。
成長段階では内部に流れる血液から栄養を得ていますが、成熟するとその供給が絶たれます。完成した角がそれ以上大きくなることは有りません。

さらに大きな角を生やすために完成した角はやがて折られ、また新しい角が生え始めます。一年であのような立派な角が生成されると思うと、その再生速度は驚異的と言えるでしょう。
プラナリア
「100分の1の大きさに刻まれてもそれぞれが1匹のプラナリアとして再生する」とも言われている再生する生物の中で最も有名といっても過言ではない『プラナリア』。
プラナリアは自身の細胞を全て把握しており、例えば下半身を失った場合には残った細胞がそれを検知し、失った部分を再生させます。

驚くべきことに、プラナリアは脳が無くなってしまった場合にも新しい脳が作られます。最新の研究では、新しい脳が切り離された脳の持っていた記憶を保持している可能性が高いという結果が出ているようです。
この「基礎生物学研究所 広報室」様の動画では、プラナリアが再生する様子が見れます。
ウーパールーパー(メキシコサンショウウオ・メキシコサラマンダー)
メキシコオオサンショウウオは日本ではウーパールーパーという愛称で親しまれています。
メキシコオオサンショウウオは、プラナリアとは違い脊椎動物であるにも関わらず非常に高い再生能力を持つ生物として有名です。
その再生能力は凄まじく、手足や尻尾だけでなく心臓や目まで再生させることが可能です。しかも再生された部分は欠損時と変わらず、完全に再生できるそうです。

イモリなどの生物も部分的には体を再生できますが、メキシコオオサンショウウオは別次元です。その再生能力を研究している研究員から「死なない程度のケガであれば、ほぼ全て再生できる」と言われているほどです。
それぞれの生物の再生能力は日々研究されており、将来的には人間への応用を期待されています。
不老不死・不死身の生物?
転生を繰り返す生物『ベニクラゲ』
クラゲの寿命は1年程度と短命ですが、『ベニクラゲ』は転生を繰り返すことで何度も若返る”不老不死”だといわれています。
ベニクラゲはクラゲの状態から”ポリプ”と呼ばれる状態に戻ることができます。
ポリプとは刺胞生物の状態の一つでイソギンチャクなどはポリプの集合体です。多くのクラゲはポリプ状態を経てクラゲ状態になり、有性生殖の後に死を迎えますが、ベニクラゲはポリプに戻り、再度クラゲに成長することが出来ます。

一説によるとそのループを繰り返し、数億年以上生きているベニクラゲが存在するとか…