事件・犯罪

【ブルーノ事件】人間に復讐を果たしたチンパンジーのブルーノの生涯

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photo by:Will Keightley

1万年以上前に犬を家畜化して以来、人間と動物の密接な関係は続いています。

時にはペットやパートナーとして、食料として、実験対象として…

その知能を持って人間は他の動物よりも優位に立っていると錯覚しますが、厳しい自然界を生き残るために進化した彼らの力を侮ってはいけません。それはときに牙を剥きます。

今回の記事で紹介するのは、動物が人間に牙を剥いた事件として有名な『チンパンジーのブルーノ事件』です。

母を殺された人間に復讐を果たした『ブルーノ』。その事件の残虐性と暗い背景から今もなお語り継がれ、世界で最も有名なチンパンジーといっても過言ではありません。

ブルーノの生涯

人間との出会い

舞台は西アフリカのシエラレオネ共和国です。

1980年代のシエラレオネは度重なる内戦で疲弊し、貧しい生活を送っていました。

そんな中で外貨を得るために、住民は子供のチンパンジーを捕らえ売却していました。その際にお金にならない母チンパンジーは殺害されていました。

政府は保護区を作るなどして対策していましたが、住民が行う無計画な森林伐採によってチンパンジーの逃げ場は失われていったのです。

事件の主人公『ブルーノ』も売られていた子供のチンパンジーの一匹でした。

シエラレオネ共和国
引用:外務省ホームページ

1988年に野生動物保護区の職員がシエラレオネの首都フリータウンの小さな村で弱った子供のチンパンジーが売られているのを見つけ、20ドルで購入します。

職員が保護していなければ衰弱死していたであろうその子が、後にブルーノと呼ばれるチンパンジーです。

当時マイク・タイソンと対戦した、英国のヘビー級ボクサーのフランク・ブルーノにちなんで名付けられ、「強く、元気に育って欲しい」という願いが込められていたそうです。

その願いの通りブルーノは大きく成長します。

成長したブルーノ

その後、数年間は保護した職員の家で檻に入れずに育てられました。

家の中で物を壊し、暴れることもあったそうですが優しい職員は叱ることをしなかったそうです。

幼少期から人間と過ごしてきたブルーノは野生のチンパンジーと違って人間を怖がりません。さらにその生活の中で、人間の身体能力が非常に弱いことを学んでしまいました。

時が経ち、職員が2匹目のチンパンジーを引き取ることになり家が手狭になったので、ブルーノは2匹で庭に設置された檻の中で過ごすことになりました。

彼はその名に込められた願いの通り、すくすく成長します。

平均的なチンパンジーの体長は90㎝ほどと言われていますが、ブルーノはなんと180㎝を超えていたそうです。倍以上もあるその身長に加えて体重も90㎏以上、他のチンパンジーと比べて圧倒的な身体能力を持っていたのです。

保護区での生活

政府の支援を受け野生動物の保護活動はどんどん拡大していき、首都フリータウンの郊外に広大な保護区が作られます。

ブルーノもそこに移動し、巨大な体躯と身体能力、人間との生活で培った賢さによって群れのボスになります。

そこでのブルーノは自分の気に入った人間には愛想を振り撒いていたそうですが、気に入らない人間には石や糞をを投げていたそうです。

一般的なチンパンジーの投擲能力は高くありませんがブルーノのその能力は非常に優れており、正確に当てることが出来たそうです。

特に身近な人間には友好的な態度を取り、人間に対して好意を持っていると信じ込ませました。それが後の悲劇に繋がります…

保護区からの脱走

チンパンジーの保護区は2重のフェンスに電気柵に囲われていました。

出入りするためには複数のカギを開錠する必要があり、その複雑な工程はチンパンジーには到底不可能と思われていました。

しかしブルーノらチンパンジーはその開錠する様子を観察し、そこから出る方法を学習してしまったのです。

2006年、ブルーノは扉の開錠に成功し、部下であるチンパンジーを引き連れ脱走したのでした。

チンパンジーの集団脱走は驚異的な出来事ですが、保護区の職員は『野生に帰って幸せに暮らすだろう』と楽観視してしまい、大掛かりな捜索をすることはありませんでした。

しかし人間の手で育てられたチンパンジーは、野生の集団に溶け込むことは出来なかったのです。

そして恐ろしい事件が引き起こされます。

残虐過ぎた復讐劇

同年の4月、保護区から数㎞離れた土地に新しい米国大使館が建設されました。

建設会社で働く米国人3名とその下請け会社で働く労働者のシエラレオネ人1名が、現地住民の運転するタクシーで施設の視察に向かいます。

保護区近くの暗い道に差し掛かったところでふと外を眺めると、チンパンジーの群れが静かに自分たちを観察していることに気付きました。

米国人らは好奇心から窓を開け、カメラを取り出しそれを撮影しようとします。

地元出身であるタクシー運転手は、チンパンジーが危険な存在であることを知っていたため彼らを止め、窓を閉めるように指示し、すぐにその場から離れようとしました。

しかし恐怖のあまり冷静さを失った運転手は事故を起こしてしまいます。保護区のゲートに突っ込んだ車は鉄製の檻に引っかかり抜け出せなくなってしまいました。

ブルーノはその隙を見て人間に復讐を開始します。

車のフロントガラスを拳で叩き割り、運転手を車外へ引きずり出します。

地面に何度も頭を叩きつけて失神させ上、手足の爪を剥がし、全て指を噛み切って動けなくしたのです。そして生きたまま彼の顔面を食い千切り殺してしまったのでした。

恐怖した4人はバラバラに逃げ出し、あっという間に個別に襲撃されてしまいます。そこに騒ぎを聞きつけた警官が駆け付け、群れが逃げたことでこの4人の命は助かりました。

この時、米国人3人は比較的軽傷で、シエラレオネ人1名は腕を切断するほどの大けがを負っていました。

この被害状況の差は、米国人が白人でシエラレオネ人が黒人だったことが原因でした。彼らは自分たちを迫害してきた現地の人間(黒人)に対して強い恨みを持っていたのです。

保護区のチンパンジーたちの多くは、ブルーノのように現地民に母を殺されていたのでしょう。保護区内では愛想よく振る舞いながらも、心の中では「親の仇」として怨んでいたんですね。

その知能を侮った人間に天罰が下った恐ろしすぎる『動物の復讐劇』です。

ブルーノ達のその後

先述した通り保護区で育ったチンパンジーは野生に馴染めず、何匹かは自ら保護区へと帰ってきました。

最終的に27匹が捕獲されたましたが、ブルーノを含む残り4匹は監視カメラに姿を捉えられたことはあありますが、未だに見つかっていないようです。

2022年、ブルーノがまだ生きているのであれば34.5歳です。チンパンジーの平均寿命が32~39歳と言われているので、まだ現地の群れのボスとして君臨しているのかもしれません。

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