生物が絶対に避けることができないのが死です。
もしも老いることのない永遠の命が手に入るのであれば、貴方はそれを望みますか?
【人魚の肉を食べると不老不死になる】
人魚の伝説は世界中に残っており、その特徴や能力は国や地域によって様々です。
「人魚の肉を食べると不老不死になる」という噂は、日本で語り継がれている人魚伝説【八百比丘尼】に基づいています。
今回の記事では人魚の肉を食べ800歳まで生きた女性の物語【八百比丘尼】についてご紹介します。
海外の人魚伝説についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
八百比丘尼(やおびくに・はっぴゃくびくに)
伝承の概要
飛鳥時代、若狭国*1のとある漁村には高橋権太夫という男が住んでおり、お金持ちだった彼は村人から『高橋長者』※2と呼ばれてました。
※1若狭国:現在の福井県西部 ※2当時大金持ちのことを『長者』と呼んでいた
とある日、何人かの長者が集まって宝くらべをしていました。
するとそこに見たことのない白いひげを生やした老人がやって来ました。
「もっと凄い宝があるのでうちに来ませんか?」
と長者たちを自分の屋敷に誘います。
舟で向かうと言われた長者たちは浜辺に向かいます。
そこには美しい小舟が用意されており、長者たちは目隠しをして連れていかれました。
着いた先にはとても立派な御殿がありました。
老人の案内で宝を見せてもらっている途中、一人の長者が台所を覗くと幼い人間の女の子を調理しようとしているところでした。
よく見てみると、上半身が人間で下半身は魚の尾びれのようなものが付いていたそうです。
驚いた長者はそれをみんなに知らせ、運ばれてきた御馳走には誰も手を付けませんでした。
老人はそれを見て
「せっかくの人魚の肉が残っては勿体ない」
と言い、長者たちに土産として持ち帰らせました。
長者たちは恐れて海にその肉を投げ捨てましたが、珍しい物が好きな高橋長者だけは捨てずに持ち帰り、戸棚に隠しておきました。
それを見つけた娘が高橋長者が寝ている間に食べてしまったのです。
娘はその肉を食べてから年を取らなくなってしまいました。
やがて娘は結婚し、時は流れます。
夫は老人になっていきましたが、嫁は若くて美しいままなのです。
そんな娘には夫が死んだ後も、求婚者が後を絶ちませんでした。
39人もの男に嫁入りしたそうです。
しかし結婚しても自分は年を取らず、必ず夫に先立たれてしまいます。
やがて村人からも疎まれるようになってしまいます。
最後には誰にも相手にされなくなり、娘は尼の姿に身を変えて諸国行脚※3に出ました。
行く先々で善行を行い白い椿を植えたそうです。
やがて故郷に帰った娘は、浜辺近くのほら穴の近くに白い椿を植え、その穴に入って行きました
それ以降、その娘の姿を見たものは居なかったそうです。
人は800歳まで生きた彼女を、八百比丘尼と呼ぶようになったそうです。
※3 諸国行脚:諸国を巡って修行すること
八百比丘尼の異説
八百比丘尼の伝承は全国各地で残されており、その数は数えきれないほどです。
上記は代表的な伝承のひとつで、物語は地方によって細部は異なりますが
- 何らかの形で『人魚の肉』を手にする
- 娘や妻が食べて若く美しい姿で不老不死になる
- 最後には出家して全国を行脚する
という大筋は変わりません。